「里山マイスター」の人たち
4.何を教えているのですか

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最初、「能登里山マイスター」養成プログラムには珠洲市に常駐する教員スタッフが5人もいると聞いて驚きました。そこで私は、特任助教をされている小柴有理江さんに話をうかがいました。小柴さんの専門分野は農業経済。「直売所での販売を通していかに地域づくり、地域活性化を起こしていくか」を研究テーマとされています。(金沢大学・宇於崎葉子)

なんだか大学みたいですね

今回、なぜ私が小柴さんのお話を聞いてみたいと思ったかというと、それは里山プログラムの講師や職員スタッフのみなさんが珠洲市に住みながら、毎日どのようなことをしているのか、とても気になったからです。
小柴さんには、まずプログラムの授業形態について説明していただきました。
授業は座学と実習から構成(54単位相当)されており、卒業までに取得すべき単位数なども定められています。さらになんと「卒論」も存在するのです。これは卒業するための必須要件だそうです。「シラバスもあるんですよ」と言って見せてくださったのはシラバス一覧。授業中に出席カードも取るというので、思わず「なんか大学みたいですね」とつぶやいてしまいました。

事前の準備をすべてやっている

担当教員の役割は授業ごとに定められています。普段、どんな授業をされているのかと尋ねてみました。
小柴さんは、主に実習の授業を担当しています。自身の研究テーマについて座学もされるそうです。実習の内容はさまざま。野菜や稲を実際に収穫する作業や、農家のもとでの技術研修もする。
「授業をたくさん持ってらっしゃいますね」と私は目を丸くしましたが、小柴さんはコニっと笑ってこう答えました。
「私はお手伝い的なことしかしていませんよ。実習での指導は農林業のベテラン指導員の方がされます。また、受講生は主体的に動いていますので、手がかかりません。むしろ大変なのは、授業の事前準備なのです。それらが私の主な仕事です。備品調達なんかが十分でないと実習も思うようにできませんからね」。

なるほど、確かにこうして会話している間も、職員室の中では絶えず誰かがコピー機をゴウンゴウンと動かし、そして誰かが備品を用意するため走り回っている。大学のように学務係がいないこの能登校舎では、講師自身が日々の事務的な仕事も全てやらねばならないのです。
さらに授業以外の時間についても、外部講師を招くことが多いのでそのアポをとったり、今後のカリキュラムの方針について話し合ったり、やるべきことが実に多いと思いました。

能登の活性化を担う地域のリーダーに

次に「能登里山マイスター」養成プログラムのこれからの課題について伺いました。

まず課題として挙がったのは、授業内容の見直し。プログラムは今年で三年目。一期生は約半数が自治体職員でしたが、徐々にプログラムの知名度や認知度もアップし、県外などから就農を希望する受講生が随分と増えたといいます。
できるだけ受講生の希望に沿った授業を行うためには、カリキュラムの見直しが当然必要になってくる。それに伴って、講義を依頼する外部の講師も変わってきます。そういう授業内容の調整も小柴さんたちの仕事になります。

そのほかの課題として、あるいは希望として小柴さんが挙げたのは、卒業後に受講生の自主的な活動がもっと活発になってくれればいいということでした。そのためには、修了生同士がなんらかのコミュニケーション手段を設けておくことが望ましいのです。
人と人のつながりを保ち、様々な地域活動に展開してくれればというのが小柴さんを始め教員スタッフの願いだそうです。

能登の魅力を発信するプログラムに

「プログラムは5年間ですが、期間が終わったら、この施設はどうなるんでしょうか。大学とのつながりはなくなってしまうんですか」と最後に質問をしました。

「大学とのつながりはこれからも続いていってほしいです。個人的には、なにか研究所のようなものが来ればいいと思うのですけどね」と小柴さん。

能登には貴重な自然があり、たくさんの研究材料がそろっているそうです。それを眠らせておくのはもったいないと私も思いました。
石川県というと、どうしても華やかな中心部「金沢」の印象が強く頭に浮かびます。実際私もそうでした。
しかし実際に「能登」を訪れてみると、金沢とは違った自然が豊かな魅力があります。金沢大学のこの取り組みが、能登の魅力を全国に伝える手助けになればいいなと思い、取材を終えました。