「里山マイスター」の人たち
1.どんなことをしているの

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金沢大学には、学生里山サークル「Racoon(ラクーン)」があります。角間キャンパス内の里山でタケノコ掘りや炭焼きを楽しんでいます。竹を粉砕したチップでカブトムシを飼育して金沢市内の小学校の子どもたちにプレゼントしたことは新聞にも取り上げられ、ちょっと有名になりました。Racoonには、里山が大好きな男子と女子の集まりで、10人ほどメンバーがいます。
金沢大学で里山と言えば、「能登里山マイスター」養成プログラムのことが以前から気にはなっていたのですが、能登半島の先端にあるので行く機会がなく、どんなことをしているのか、そしてどんな人たちがいるのか分かりませんでした。
今回、「能登半島全国発信プロジェクト」で取材をするチャンスに恵まれましたので、「能登里山マイスター」養成プログラムについて紹介します。(金沢大学・宇於崎葉子、枡屋晴香、川田仁美、前野恭穂、米良亘平)

無口になってカニ料理を堪能

1回目は枡屋が担当します。
金沢大学から珠洲市へ。山側環状の道路を使って車で向かいました。この日(2009年12月18日)の天気は大荒れでした。雪や雷やあられが降って、日本海側の冬は厳しいなと思いました。ちなみに私は三重県出身です。雪のため能登有料道路をゆっくり走行したので、夜遅くに「能登里山マイスター」養成プログラムがある珠洲市に到着しました。

民宿「むろや」で、私たちを待っていてくれたのは、ブリとカニの料理。北陸の冬といえば、なんといってもブリとカニですね。最初はしゃいでいた仲間が途中から無口になって、黙々とカニを食べていました。ズワイガニは近くの漁港で揚がったものだと、民宿のおばさんから説明を聞きました。私にとって、地元能登の方と話をするのがこれが初めてだったので、とても新鮮でした。

環境配慮の農林業人材を育てる

翌日(12月19日)、私たち5人の学生は一人ずつ自分が最も興味のある分野に分かれ、講義や実習の様子を取材をしました。ここで「能登里山マイスター」養成プログラムのことについて、私なりに理解した範囲で説明します。

このプログラムの目的は、社会人の人材養成で、「環境をテーマに能登を活性化する農業や漁業、林業の若手人材を養成する」(同プログラムのパンフレットより)ところがミソです。でも、ここで疑問なのは、金沢大学には農学部も水産学部も林学部もないのです。なのに農林漁業の若手人材を育てるというのはちょっと変ですね。その点を「能登里山マイスター」養成プログラムの企画運営担当、宇野文夫さん(金沢大学地域連携コーディネーター)に伺いました。

「プログラムの目標は地域起こしです。農業や漁業の名人を育てることが目的ではありません。このプログラムでは環境に配慮した第一次産業(農林水産業)を担う人材を育てたいのです。農林水産の技術的なところは地元のプロにお願いし、そこでどうやったら環境配慮が生まれるのかを大学の教員スタッフといっしょに考えるというのがこのプログラムのコンセプトです」
「本州最後のトキが能登半島にいました。再びトキが生息できるような農村環境をどうやったらつくれるのだろうかということを、バックキャスティング(逆算)で考える、そんな人材を能登半島で60人育てるというのがこのプログラムです」

廃校を丸ごと活用

2年間のカリキュラムで54単位相当の講義や実習を受けます。最後に卒業課題研究を発表して、審査の結果とこれまでの出席率などが総合判定され、卒業、つまり「能登里山マイスター」に認定されるか決まります。毎週土曜日の一日と隔週金曜の夜に学ぶのですが、社会人でもある受講生の皆さんは大変だと思います。
そして、最大の特徴は学校の校舎です。学校統合で廃校になった小学校を再活用しているのです。体育館も給食調理室もあります。「学校のリサイクル活用」という感じです。

生物多様性のワークショップで頭を鍛える

そこで私も、授業に参加させてもらいました。

授業は、愛媛大学教授農学部の日鷹一雅准教授の講義です。講義では、はじめに参加型ワークショップを行いました。6~7人で一つのグループとなり、各机に大きな白紙一枚、付箋、ペンが配られます。

日鷹先生から提示された最初の質問は「生物多様性とは何か」。
各グル―プで、自分の意見を付箋に書いて白紙上にどんどん貼っていきます。私のグループでは、「生物の種類が多いこと」「生態系ピラミッドの底辺となる生物が多いこと」「生態系のバランスがとれていること」などが挙がりました。

次の設問は「暮らしの中の生物多様性とは何か」。
生物多様性を普段の暮らしと結びつけて考えるのは、予想以上の難しさでした。
「雑草」「生き物の声」「きのこ汁」などの意見が出ました。ちなみに「きのこ汁」は私の意見です。一杯のきのこ汁の中に舞茸、しめじ、えのきなど様々なきのこが入っていることも生物多様性と言えるのではないかと考えたのです。

この考えを話したとき、同じグループの人がうなずきながら私の意見を受け入れてくれたことがとてもうれしかった。また、他の人の意見を聴くことで、自分にはなかった発想を知ることができ、頭の柔軟性が鍛えられたような気がしました。

黙々と「恵比寿さん」づくり

そして午後からは、型紙づくりと門松づくりの実習です。
「恵比寿さん」「宝船」「寿」などおめでたいデザインの型紙づくりを行いました。型紙を切り抜いているうちに、受講生みんなが集中して黙々と手を動かしていたのが印象的でした。
この型紙づくりは、ハサミなど簡単にそろえられる道具で、どこでも手軽にできるところが魅力的です。また、椅子に座っての作業なので、老若男女問わず取り組むことが仕事だと思いました。

環境を考え、地域の文化も大切に

生物多様性のワークショップから「恵比寿さん」まで、この一日でいろいろなことを教わった気がします。環境を考えながら、地域に残っているクラフトや文化も併せて理解していくことの大切さを、ここ「能登里山マイスター」養成プログラムでは教えているのです。