輪島市・總持寺にまつわるおはなし
「味噌擂り地蔵」「大擂粉木と大杓子」「子は清水(しゅうど)」

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總持寺は能登旅行された方ならご存知でしょう。しかしながら、そこにあるお話はあまり知られていません。そのような中、お話に登場する物が總持寺内に残っています。次にまた訪れる機会があれば、また違った視点で楽しんでもらえるかと思います。また、近隣スポットとして名水100選にも選ばれた古和秀水にも行ってきました。そこにまつわるお話を3つご紹介していきたいと思います。

味噌すり地蔵

昔、總持寺で一日中味噌擂りをする了念という小僧がいました。大きなお寺である總持寺では味噌を擂るにも一人がかかりっきりにならなければならなかったのです。毎日続く味噌擂りの日々で、了念は現在の長野県にある善光寺に参詣したいと思うようになりました。そこで境内にある地蔵を毎日参詣し、願掛けをしました。
ある日、了念ではなく、見知らぬ小僧が味噌を擂る姿がありました。他の修行僧が、了念の居場所を尋ねても、その小僧はただ笑って何も答えません。修行僧たちは、了念が逃げてしまったと思いました。しかし数日たったある日のこと、いつものように味噌を擂る了念の姿がありました。修行僧たちが問いただすと、願掛けをしていたお地蔵様が身代わりになるから善光寺へ言ってこいとおっしゃられたというのです。それからその地蔵は味噌擂り地蔵と呼ばれるようになりました。

大擂粉木と大杓子

昔、總持寺の近くに住む意地の悪い姑と信心深い嫁がいました。意地の悪い姑は嫁への嫌がらせに、炒った豆を畑にまくように言いつけました。何も知らない嫁は素直に豆をまきましたが、炒った豆の芽が生えてくるはずがありませんでした。
そんなある日、一つだけ畑に芽が生えていました。嫁は總持寺へ行き、この芽からたくさんの豆が取れるよう観音様にお願いしました。すると、世話をするうちに芽は木となり、仕舞いには天にも届く大木となりました。これを見た姑は自分の考えを改め、嫁と相談の上、その木を總持寺へ奉納することにしました。
總持寺ではこの木から大擂粉木と大杓子、そして臼をつくり、現在でも見ることができます。

子は清水(しゅうど)

昔、總持寺の近くの集落に信心深い百姓の父親とその息子がいました。百姓は酒好きでしたが、晩酌もできず、朝から晩まで働いていました。
集落のある山には總持寺を開いた瑩山紹瑾(けいざんじょうきん)禅師が、龍神のお告げによって見つけたといわれる湧水があり、その水を飲むと長生きをするというので、山仕事から帰る途中の村人たちはみなその水を飲んでいました。
ある日、山仕事帰りの父親がその水を飲むと、とてもいい気分がしたので、杓で何杯もその水を飲みホロ酔いになって家に帰りました。それから父親はたびたびその湧水を飲んでは、酔っ払って家に帰ってきました。
その様子を見た息子は、父親が町で借金をして酒を飲んできているのではと心配になり、山仕事帰りの父親の後をつけてみました。すると、父親が何杯も湧水を飲み、酔っ払って家に帰っていきます。不思議なこともあるものだと息子は自分もその水を飲んでみました。しかしそれは単なる水で、息子は思わず「親には酒、子には清水(しゅうど)」とつぶやきました。
この話は村中にひろがりいつしかその湧水は「こわしゅうど」と呼ばれるようになり、その話を聞いた總持寺の禅師がめでたいという理由で「古和秀水」という漢字を当てました。

スポット

●總持寺【そうじじ】:輪島市門前町
 總持寺と庭園のコントラストが美しい。

總持寺を少し歩いたところに民話に登場する味噌擂り地蔵がある。横に説明書きがあるのでわかりやすい。「味噌擂り地蔵」のお話は、子供とはいえ修行僧でありながら自分の仕事をお地蔵さんに変わってもらうというユーモラスなお話であるが、実際にその地蔵を見てみると、確かにそんなこともあるかもしれないと思ってしまうので不思議だった。内部を見学、圧巻だったのが、本殿中央の通路にぶら下がった大擂粉木と大杓子だった。正直言って実物を見るまでは、自分の背丈程度のものだろうと思っていたが、実際にはその何倍もある大きなものだった。

●禅の里交流館【ぜんのさとこうりゅうかん】
 :輪島市門前町

 総持寺を楽しく学ぶ。

總持寺の近くにある交流館では總持寺祖院の資料が約60点を展示してあり、二階では、一年の總持寺の暮らしを撮影した映像をみることができ、地域の人々に今なお總持寺が親しまれていることを見せてくれる。

●古和秀水【こわしゅうど】:輪島市門前町鬼屋
 親子の物語にちなんだ總持寺ゆかりの名水。

總持寺を出発してしばらく、民家が並ぶ坂道を走る。山道に入り不安もつのるが途中に案内の看板がいくつも立ててあるので割と容易に古和秀水のたどり着くことができる。見晴らしのいい山の中腹にある古和秀水の周りには整備された公園があり、晴れた日には家族でドライブがてらお弁当を持って食べに来るのもいいかもしれない。