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学生プロジェクト

震災復興の中で見いだされた「地域の文化遺産」


1.震災復興の中で見いだされた「地域の文化遺産」

■『黄檗版大蔵経』とは
 石川県羽咋郡鹿頭にある常徳寺(浄土真宗大谷派)の経蔵には、江戸時代の経典『黄檗版大蔵経』2,095冊が納められています。『黄檗版大蔵経』とは、黄檗宗の僧・鉄眼によって開版された大蔵経で、1678年(延宝6)以降、全国の寺社に納められ、仏教研究の道を切り開く基礎となった経典です。常徳寺が所蔵する『黄檗版大蔵経』は、15代住職の得住が、門徒からの寄進をもとに1868年2月までに全巻を買い求めたもので、経典は「輪蔵」という八角柱形の回転式本棚に納められ、今日まで受け継がれてきました。
■震災による被害
 しかし、2007年3月25日に発生した能登半島地震により、寺院、経蔵が甚大な被害を受けました。地震の激しい揺れのため、経蔵内の輪蔵が破損し、納められていた経典が蔵内に散乱した状態となったのです。そこで、金沢大学文学部比較文化、日本史学、日本語学日本文学の3研究室で、(1)常徳寺所有の『黄檗版大蔵経』の修復・整理を行い、震災以前の状態へ復元すること、(2)経典購入の経緯や得住について調査し、史料の内容や意義を明らかにすることを目的とし、8月上旬と11月に合計4日間の現地調査を行いました。
 
■いざ、常徳寺へ。
 2007年8月2日。学生20名、教員3名が、常徳寺に集合しました。寺院は、本堂、鐘楼、経蔵ともに、震災の爪跡が色濃く残っており、地震発生時の揺れの大きさが窺えました。私たちは経蔵の内部の様子や、壊れた輪蔵を見学した後、常徳寺本堂で『黄檗版大蔵経』の修復、寄進札の調査に取り掛かりました。また、経蔵の内部には、得住が収集したとみられる2,400冊余りの蔵書があり、これらの文献もあわせて調査・修復を行うことにしました。
 
■経典をこころを込めてなおす。
 『黄檗版大蔵経』については、欠本の有無、劣化の状態、震災での被害状況を確認し、破損のある経典には糊付け・乾燥・埃払いなどの処置を行いました。
 『黄檗版大蔵経』は黄色い表紙の和装本で、2,095冊の経典にはそれぞれ内容や巻ごとに千字文(せんじもん)の漢字が一字ずつ割り振られています。そして経典は、千字文に従って2~9冊ずつにまとめられ、「帙」(ちつ)と呼ばれる覆いに包まれています。帙とは和本の劣化を防ぐための収納箱で、その数は277にのぼります。私たちはまず、帙から一冊一冊経典を取り出し、帙と経典に墨書きされている千字文を見比べながら、経典が全て揃っているかどうかを確認しました。同時に、虫食い・虫の糞尿によって表紙や丁の固着のある経典については、ハケ等で丁寧に除去・清掃を行い、見返しや題箋が剥がれている経典については、薄めた麩糊で接着を行いました。
 
■2,095冊!すべての経典をなおす。
 4日間の作業の結果、『黄檗版大蔵経』2,095冊すべての修復を終えることができました。震災や経年により、ほとんどの経典に虫害、黴、湿気による痛みがみられたものの、輪蔵という保存環境にあったこと、帙に収納されていたことで比較的状態がよく、欠本もみられませんでした。
 寄進札・文献については、「表題」「年代」「作成」(版本の版元)「備考」(奥書、年月日、印など)を整理カードに記録し、写真撮影を行いました。
 寄進札は、江戸後期から明治時代初期にかけて記されたものが、寺院に200枚ほど保存されていました。調査により、『黄檗版大蔵経』購入のための寄進が記された札や、安政4年(1827)の御経堂輪蔵建立の旨が記された札が確認されました。さらに、常徳寺の属する鹿頭をはじめ、酒見、笹波、大泊といった近隣の村の住人が篤志を寄進していたことがわかり、常徳寺や得住が、地元の人々に篤く信仰され、支えられてきたことが明らかになりました。
 
 次に、経蔵内に所蔵されている文献について内容を調査したところ、仏典の版本が大部分を占めるなかで、キリスト教批判書や白山信仰など、仏教とは関係の無い文献もいくつか散見されました。さらに、得住と、その後継者である玄寧(げんねい)の自著が見つかったほか、得住や玄寧本人が書き込んだとみられる朱書きの注釈が数多く見つかりました。朱筆での書き込みは『黄檗版大蔵経』にもみられ、これらの史料は「手択本」(しゅたくほん・著名人やその本の筆者が手元において愛読した本)として唯一無二の価値を持っていることがわかりました。
 
■過去を現在に伝える「知のタイムカプセル」
 今回修復・調査を行なった常徳寺経蔵内の『黄檗版大蔵経』や文献は、まとまって現存している点、江戸時代の学増・得住の手択本という点からも史料的価値の高いものとして貴重だといえます。
 また、経蔵、『黄檗版大蔵経』や文献は、主として得住と玄寧の学問研鑽に使用されたものであり、彼らの生きた幕末から明治初期の知を現代に伝える、いわば「知のタイムカプセル」ともいえる空間です。そしてそれは、寺院や寺院をとりまく地域の歴史を伝える貴重な史料であるとともに、地元の人々によって支えられてきた、地域の文化遺産でもあるのです。(寺田)
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