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のとだより
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目と、耳と、鼻と、舌と、肌で。


 萩のゆき さん/花月総本店 店主

■目と、耳と、鼻と、舌と、肌で。
 田んぼに湛(たた)えられた水の中に、そよそよと早苗が風に吹かれている。晴れ間がうれしい六月の能登。
 大島紬にしては淡い鳶色(とびいろ)の着物は土。更紗の帯のちょっといびつな花は畔に咲く雑草。帯揚げの若葉色は稲の葉の柔らかさを、ずーっと広がる水面は朝縹(あさはなだ)のゆるぎ組の帯〆に見立ててーと自分だけのお話を仕組む。
 
 年初めから着物を時折着るようになったばかり。装うというより素材の豊かさを、季節の色を肌に纏う心地良さに惹かれている。鏡の中の自分も見ないではないけれど、何より着てること自体が嬉しい、楽しい。着こなしのお手本はうちの周りの自然。さながら形と色と素材の見本帖。葉陰に透き通ったオレンジ色の木苺も、瑠璃色に輝く甲虫の羽も。
 能登の自然に囲まれた暮らしの中で、食べる事と住まいの事はそれなりに良さをわかった気でいた。でも着るって事もこんな形で楽しめるなんて思いがけなかった。暗くて寒い冬があったり、不便な事があったりするから、こんな喜びもあるのかも知れない。
 着物はどれも基本的に同じカタチ。だからこそ、取り合わせで、着付け方でその人らしさが表れるらしい。決まり事は大事だと思うけれど、まずはワタシゴノミを頼りに着てみたい。祖母達から譲られた紬は昔のものだけれど、今の私の気分に近い。袖を通しては、「私はここでこんな暮らししてますよー」って今は亡き祖母に報告したり、「40の頃ってこれ着てどこに出かけてた?」とか問いかける。十年とか二十年経ってこの着物を着る事があったなら、今日の私をどう振り返るんだろうな等と思い馳せる。
 ふと気付く。着るって文化なんだって。
 
萩のさん手作りの原稿用紙に手書きで届きました。
萩のさん手作りの原稿用紙に手書きで届きました。
●プロフィール
萩のゆき。1966年東京都生まれ。日本女子大学住居学科卒業。在学中より神保町のstudiolivreで手製本を学ぶ。米国生活を経て石川県の能登へ移り住み、山あいの暮らしの中で自らが欲しい日用品を中心に、ジャンルにとらわれないデザイン・制作をしている。老舗のお店の商品企画やパッケージデザインなども手掛ける。
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